雨、ときどきセンセイ。


最後まで、ドライなんだから。

……仕方ない。
名残惜しいけど、現実的に考えて、ずっと一緒にいることは出来ないんだから。


自分にそう言い聞かせて、踵を返す。


制服を着てくぐる校門はこれで最後。

思えば、今まで何も考えずに毎日のように学校に来てたけど、すごく貴重な時間だったんだ。
友達とも……センセイとも。
家族よりも長い時間、顔を合わせて居られたんだから。

もっと、もっともっと。
一緒に居たい。

センセイと。


遠くでまた、チャイムが聞こえた。
その音を感慨深く聞きながら、私は手にあるクリップを見つめた。

学校と、教室と。
そして茜さすあの音楽室と黒いピアノ。


もの思いに耽っていたら、パシャッ……と足元から聞こえてきた。
その音源の地面の水たまりへと視線をおろす。


水たまり、濡れた傘。


バス停に着いて、空を仰いだ。
ちょうどその時にポケットが震えた。


知らない番号――……。

まさか……!


「もしもし!」
『ふらふらしてると危ないぞ』


受話器から聞こえる声に、ドキンとひとつ胸を打つ。


どこから見えてるんだろう?!


急な電話とその声に、背筋を伸ばして勢いよく振り返る。

校門の影になってしまっている駐車場に目を向けて見るけど、さっき見た時はもう居なかったはずだし。

そうして次に校舎を見ると、ひとつの教室の窓に人影があるのに気付いた。


「み、見てたんですか」


あの教室は3年の……私とセンセイのクラスだ。


『色んな意味で、目、離せないヤツ』


表情は遠くて見えない。
けど、声色でどんな顔をしているか想像出来るし、なんだかそんな感じがくすぐったい。


最後のバス停。
耳元では低音の笑い声。

足元にはさっき出来た水たまり。
空は今、晴れてる。


ときどき、思い出す。雨の中のセンセイ。

それと、今日の雨上がりの下でのセンセイ。


「色んな意味で、目、離さないで下さい」


雨、ときどきセンセイ。
これからも、ずっと。






*おわり*