自意識過剰だったんだ、と穴があったら今すぐにでも入りたい思いになった私は顔を伏せて目を瞑った。

でも、すぐにその顔は顎に添えられたセンセイの手によって上げられた。

今の思い過ごした勘違いが死ぬほど恥ずかしくて目だけは、ぎゅっと瞑ってた。


「何かを言うために待ってた……っていうのは、俺に? それとも水越に?」
「……」
「どっちに? なんて?」
「……せ、センセイに」


一度言ったことがあるからって、二度目が容易く言える、なんてことはない。

『好き』と伝えることはとても難しく、勇気のいること。

それが例え……例え、もうきっと想いは繋がっていると思っていても、面と向かって伝えることはかなりの労力をつかうのだ。

……恋愛ベタな私みたいな人間は、特に。


「ぶ!」


目を閉じていたままだったから、何の前触れもなく掴まれた頬によってマヌケな声が漏れた。

驚いて目を開けると、視界いっぱいにセンセイが入り込んでいて。
呆れた目をして私を見て言った。


「言ってみろよ」


その目と言葉に後押しされて、半ばヤケになりながら答えた。


「……センセイが、やっぱり好き。……って」


かなり頑張って言ったのに。
それなのに、どーしてセンセイは何も言わずにいるの。


私は羞恥を晒しただけのような。
恥ずかしく、そしてこんな仕打ちをするセンセイにちょっと恨めしい気持ちを込めて上目遣いで見上げる。

目が合うと、余計に戸惑った私は、センセイの言葉を待てずに口を開いた。


「……わ、わかってたくせに!」


センセイくらいなら、それこそその相手が自分てわかった時点で計算出来てたくせに!


私は勢いで目の前のセンセイの胸を目掛けて手を上げた。

だけど、無情にもその私の手はセンセイの胸に届かず…。
握りしめた拳をそのまますっぽりとセンセイの片手に包み込まれてしまった。


「……ズルい。自分ばっかり……」
「お前が言い当てたんだろ」
「え?」


阻止された私の拳を握る手は、そのまま私を引き寄せた。

そして頭上から体(こころ)に響く音が聞こえる。

――私の大好きな、声(おと)。


「俺を『ハッキリさせたい性格』なんだろって」