ポーン。
『真山先生、真山先生。お電話が入ってます』
目を閉じかけた私たちを遮ったのは校内放送。
「……」
「……」
そんな放送を耳にして、見つめ合った後に同時に吹き出した。
「……で、電話みたいですね」
「ああ」
「どうぞ?」
「……はぁ。計算されたかのようなタイミングだな」
頭を掻いて、センセイがだるそうにそう言って離れた。
そしてセンセイは私に背を向けてドアに手を掛ける。
その背中を見つめていたら、くるりと私に振り向いてセンセイが言った。
「あー……忘れ物。ほんとにあるから駐車場で待ってて」
「え? あ、はい」
それだけ言うと、センセイは音楽室から出て行ってしまった。
私はセンセイが出て行ったドアを少し見つめて立っていた。
それから胸にゆっくりと片手をあてる。
……すごい、ドクドクいってる。
そりゃそうだよ。
まさか、センセイが――……。
さっきまでの甘い時間を思い出して体を熱くする。
いつの間にか床に落としていたカバンを拾い上げて、ピアノの上にそっと置いた。
黒いピアノに映る自分の顔を見て、ニヤけ顔を確認する。
そしてそれを引き締めるように目を固く瞑って頭を振って顔を上げた。
この位置から見る音楽室。
その窓側に、いつもセンセイが立っていた。
脳内にその映像を投影しながら、私はピアノの椅子に歩み寄る。
そして腰を降ろすと、蓋が開いたままで見えていた鍵盤に指を添える。