「はーい。みんな、早く席着いてね」
外の天気とは反対に、明るく柔らかな声を発したのは香川先生。
教科書なんかを抱えるようにして前の入り口から教室へと入ってきた。
「水越くんも、席についてね」
にこりとこちらを見て香川先生が言う。
水越じゃなくて、私を見てる……?
口元に上品な笑みを浮かべたまま、その視線の先が自分のような気がしてならない。
そしてその目を逸らすことも出来ずに、ただ見つめ返す。
「はい。じゃあ始めましょうか」
すっと先に視線を外したのは香川先生の方。
日直を探すように教室内を見渡して、教壇の前にいつものように立っていた。
……思い過ごしかな。
さっきの真山センセイといい、ちょっと私が過敏になってるだけなのかも。
そう思って、私は机の上の数学の教科書をしまって現国の教科書を広げた。
答えが複数ある国語、か。
感じ方は人それぞれだし、表現の仕方も無限にある。
あ……。
考えたら音楽もそうかな。
同じ曲でも捉え方はきっと千差万別。
悲しいと感じる人もいれば、穏やかだと受け取る人もいるかもしれない。
センセイと私の答えが今はバラバラで。
でも、それがもしかしたらいつか、重なることもあるかもしれない。
さっき居た筈のセンセイの立ち位置に視線を向けて思う。
……会いたいなぁ。



