「じゃな」


校門前で水越と別れる。

相変わらずこの短い距離を一緒に帰るだけに私なんかを待っていたのかと想像すると笑っちゃうけど。


「なんだよ」
「ううん。じゃ、明日ね」


そう言って軽く手を振って水越に背を向けようとした時だった。

グイッと腕を掴まれて引き戻される。

びっくりした私は水越の顔を目を見開いて見た。


「やっぱ“変わる”かもしんないから、オレまだ諦めないわ」


もう夕陽は沈んだから、水越の顔がほんのり赤いのは照れているということだと思う。


もしかしたら、諦める為に音楽室(あそこ)に居たのかもしれない。


なんてことをこの至近距離にもかかわらず、冷静に考えたりして。

すると、私を掴んでる水越の手が心なしかぎゅっと力が入っている気がした。

そして徐々に近づいてくる水越の顔を、私は黙って見つめて。


鼻先が触れるかと思う時に、言った。


「……どうして水越は私なの?」


その質問に水越は目をぱちっと大きく開いた。

そして触れそうな距離をまた離して大きく息を吐いて言う。


「じゃあ、どうして吉井はアイツなの?」


……え?

それはお昼にみっちゃんとも似たような話をした気がする。

ああ、そうか。そうだった。

きっかけは何にせよ、細かい理由なんて意味がないんだった。


「あー……気付いたら……?」
「……オレも、それ」
「ズルい」
「うるせぇな。早くフられろ」


そんなことを言い合ってたら私が乗るバスが見えてきて、水越は手を離してくれた。


『早くフられろ』、か。


バスの中で水越の言葉を反芻して苦笑した。