「帰ろうか」


水越がそう切り出した。

靴を履き替えて、微妙な距離を保った私たちは玄関を出る。


少し前を歩く水越に、ぽつりと漏らす。


「時間が経つにつれて、変わっていくのかなぁ」


漠然とし過ぎてる。
独り言のようで、水越に語りかけているようなその言葉は、ちゃんと水越に届いていたようで。

ピタリと立ち止まり、私を振り返って水越が言う。


「環境とか、気持ちとか。そりゃ変わっていくだろ」


もっともな意見。
だけどそれが今の私には突き刺さる感じがする。


「そう、だよね。変わらないことの方があり得ないよね」


上手く笑えてないと思う。
けど、懸命に口角を上げて、私はそう答えた。


「いや。変わらないものだってないわけじゃないんじゃねぇ?」


俯きかけた私は顔を上げた。
水越の顔を見たら、ふざけているようにも見えない。
ちゃんと、私のわけのわからないであろう質問に答えてくれてる。


「多分、吉井はこれからも吉井のままだし、オレもそうそう変わるなんて想像出来ねぇ」


カバンを逆の肩に掛け直しながら水越が言ったことに、私は目を丸くした後笑ってしまった。

 
「なんだよ……そこ、笑うとこかよ」
「や、うん。ごめん」
「まぁでも、未来(さき)のことなんか、誰にもわからないからな」


何気に空を見て水越がそんなことを言うものだから、つられて私も空を見てしまった。


夕陽が落ちる。
明日がまた来る。

今日の私と明日の私が急に変わることなんて、きっとない。

けど、ちょっとずつちょっとずつ。
自分が変わっていたり、何かを変えていたりするかもしれない。

勿論、それは前向きに捉えよう。