モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。

《杜side》

俺はあれから考えた
今の俺が出すべき答えを

あの日、かの子に会い
どうしようもなく、心が乱れた

かつて、あれほどまでに愛して止まなかった
かの子が目の前にいるという現実





俺は大学を卒業する頃
別荘で療養中のかの子が
婚約したことを知らされた

俺はいつかはこんな日がくると思ってた
どんなに想いを寄せたところで
俺とかの子は戸籍上も血の繋がりもある
姉弟だ

それはどうすることもできない事実だ

解っていた筈なのに
俺はその事実を受け入れる事がどうしても
出来なかった

かの子が婚約したこともーーー
腹違いとは言え
ーーー実の姉であることも

弱かった俺は苦しみから逃げた
逃げることで気持ちにけりをつけようとした

逃げるからには
完全に一ノ瀬と縁を切る覚悟だった

一ノ瀬の父や兄の顔が浮かんだ
妾の子ながら、あれほどまでに
可愛がってもらいながら裏切る形になり、
申し訳ない思いがした





そしてーーー
ーーー継母の顔も浮かんだ

何かと、厳しくされたものの
昔、かの子が言ったように
あの人なりに一ノ瀬の家を守るのに
必死なんだと思うと同情すら覚えた

それにその後、家を出て助けになったのは
継母により、厳しく育てられたお陰で
大抵の仕事はこなせた

だから、家を出てからの数年間
何とか生きてこれた
意外なところで初めて継母に感謝した




一ノ瀬の家にいたときに与えられていた
金を俺はほとんど使う事がなかった

家を出るとき、その金を使い
取り合えず西へ西へと向かった

家を借りると万が一、足がつくかもしれないと
用心に用心を重ね

住み込みや安ホテルを定宿にしたり
その土地で知り合った適当な女の所に転がり込んだり…

稼いだ金もそんなに使うことはなかった
ただ、絵は描いた
とにかく描き続けた
その為の道具なんかを買うくらいで
後はさほど使うこともなかった

そんな生活を数年続けていた
ある時、描いた絵を売るでもなく
ただ、道端に並べていると

年取った爺さんがやってきて
絵を売ってくれと言ってきた

俺は正直、戸惑った
自分の描いた絵を売るとか全く
考えていなかったからだ

戸惑っている俺に爺さんは
一万円札と電話番号を書いたメモを
置いていった

気が向いたら連絡を欲しいと…

それが俺が絵で初めて稼いだ金だった

それからも、ちょくちょく
そういうことがあった

そして、
ある時、爺さんがくれたメモの所へ
電話してみた

約束の場所に行くと
そこは大企業の会長室だった

そこで俺は初めて大きな作品を
手掛けることになった

爺さんの部屋に飾る絵を描いて欲しいと
正式に依頼があった

ざっと見ても50~60号ほどになりそうな
スペースだった

俺は時間を欲しいと言うことと
製作にかかるにあたって
ある場所に向かう事を爺さんに伝えた

ある場所ーーー

その時の俺には
一ヶ所しかなかった