モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。

「いやぁ~~
まさか、美雨さんと
晩御飯まで、ご一緒できるなんて…」

「僕は誘った覚えは
ないんだけど…美雨ちゃんは?」

「ええ…特にお誘いした覚えは…
ないですね」

結局、あの後、
美登が雑貨屋を訪れ
三人は一緒に食事を取ることになった

「美登さんはこういった
いかにも女性が好きそうな
お店をよくご存知でらっしゃる
さぞや、おモテになるんでしょうなぁ」

と、適当な事を言いながら
どんどんテーブルに並べられた
皿を空けていく岡崎

三人が来ているのは
美登が昔からよく来ると言う
洋風居酒屋で、オーナーシェフの
創作料理が自慢の店だった

もちろん、オーナーシェフと美登は
気心しれた仲だった

「美雨ちゃん、遠慮せず
しっかり食べてよ
ほら、あんたは少しは遠慮しろよ
そんなにがっついたんじゃ
美雨ちゃん、食べれないじゃないか」

「ああ~、
そうですよね
これは失礼いたしました
ここのところ、別件で張り込みが多く
まともな食事にありつけて
いなかったもので、つい…」

と、言いながらも
側を通りがかった店員を呼び止め
さらに追加注文をする岡崎を尻目に
美登は美雨に話しかけた

「美雨ちゃん、大丈夫?
今日、聞いたんだよね、岡崎さんに
かの子さんの事」

「あ、はい
教えていただきました」

「その、僕が言うのもなんだけど…
気にする事ないからさ
って、気にするよなぁ…」

美登は困り顔で美雨に聞いた

「美登さん…
気になさらないでください
美登さんこそ
大丈夫ですか?」

「ああ、僕?
僕はこう見えてタフだよ
それにさ、戸惑う気持ちと同じくらい
嬉しい気持ちもあるんだ」

「嬉しい?」

「ああ、だって、一人っ子だからさ
やっぱ、兄弟が出来るのって
嬉しいよ、例え、ワケありでもね」

美登は尚も、岡崎が店員と今度は
沖縄料理の話で盛り上がっているのを
確認すると美雨に話を続けた

「そのさ、
不安…だよね?かの子さんと杜のこと」

言いにくそうに話す美登に
美雨は

「そう……ですね」

と、素直な思いを口にした
次の瞬間、ハッとして

「大丈夫です!
信じてますから、杜さんのこと
きっと、杜さんなりに考えがあって
何も言わず、消えたんだと思います
私の状況よりずっとずっと杜さんの方が
複雑な心境のはずですから…」

「美雨ちゃん……」

美登はそれ以上、
掛ける言葉が見つからなかった

その空気を察してか
はたまた、ただの偶然なのか

「美登さん、
今度、沖縄料理のお店に行きませんか?
彼、沖縄の出身だそうで、いいお店知ってるそうですよ、あっ、これ、食べないんですか?
じゃ、遠慮の塊いただきますということで…」

と、岡崎は言うと皿に一つだけ残っていた
カニクリームコロッケを
一口で頬張った

その様子を見ていた美登も
今ばかりは岡崎の飄々とした明るさに
救われる思いでいた










「ご馳走さまでした」

部屋の前まで来ると美雨は笑顔で言った

「いえいえ、とんだ邪魔者が
入ってしまったけどね」

と、苦笑いする美登に

「いえ、むしろ良かったかもしれません
岡崎さんも実はああ見えて
意外に優しい方だってこと
最近、わかってきたので
岡崎さんなりの気遣いなのかなと
少し思ったりもしています」

美雨は思ったままのことを告げた

「はっはっはっ
確かにそうだね
わかるよ
彼なりのパフォーマンスかもね
きっと、僕と美雨ちゃん二人で
ご飯食べてたら今頃、お通夜みたいに
なってたかもね
まぁ、たまにはいいかも
彼とご飯もね
そうとなれば
沖縄料理の件、考えてやるか」

美登は努めて明るく笑いながら
美雨が部屋に入るのを見届け
その場を立ち去った

帰り道、美登はふと夜空を見上げ
微かな声で呟いた

「なぁ、杜
お前は今、なにを考えてる?
お前はいつまで僕を苦しめるんだ?
フッ、言っても仕方ないか……
お前、知らないもんな……
僕が今でも…………………………だなんてな」

通りすがる人はいたものの
誰一人とて
美登の呟きに気づくものは
いなかった