モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。

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杜からの告白を貰ったものの
特にこれまでと付き合い自体は
変わらなかった

あの後、
美登に問い質された後
もう一度、杜に言われたのだ

「とにかく、今はアンタの絵を
描き上げたいんだ
だからーーー
それまでは、今のままでいたいと思ってる
ーーー絵描きとモデルとして
だけど、全てが終わったとき
もう一度、きちんとアンタに
思いを伝えようと思う
俺の全てをーーー」

美雨は嬉しかった
杜がこんなにも
自分の事をちゃんと
考えてくれている事に感謝した
そして、
美雨自身も杜のその思いに応えたい
と、心から思った
だからこそ、
雑貨屋の仕事に戻るのは
とてもいいタイミングのように
思えた

そしてーーー
満開の桜が咲き乱れる頃

あの男がやって来た
やたらと日焼けし
髭面のーーー

「ボンジョルノォ~」

「オーナー!」
「神村さん!」

美登の事務所のドアを思いきりよく
開けて、雑貨屋のオーナー
神村 駿太郎(かみむら しゅんたろう)が
入ってきた

「村嶋くん、美雨ちゃん、久しぶり
村嶋くんには、美雨ちゃんの事で随分と
世話をかけたね
改めてお礼をいうよ
ありがとう」

「神村さん、止してください
僕はたまたま、人材を探してて
そして、たまたまフリーだった
美雨ちゃんに仕事を頼んだ
それだけです
あと、美登でいいですよ、神村さん」

美登はいつもの愛想のいい笑顔で言った

「では、さっそく
美登くん、本当に世話になったよ
結局、あの店のメンテナンス
美登くんがしてくれてたんだって?
何て、お礼を言ったらいいやら…」

「気にしないでください
神村さんが、お元気で戻って来られたんだし
それが、何よりです、ねっ、美雨ちゃん?」

「はい、オーナーが
元気に戻ってきて本当に嬉しいです
そして、またあの雑貨屋を
始めれるかと思うと楽しみです」

美雨が言うと

「実はここへ来る前に
店の前を通ってきたんだけど
こんなものがドアの隙間に
挟まっていたんだよ」

と言って、神村が差し出したものは
一枚の封筒だった

「中は?」

美登の言葉に首を横に振る神村

「取り合えず、開けましょうか?」

そう言って、封筒を受け取り
美登はデスクに置いてあったハサミで
封筒の口の部分を
ザクザク切っていった

すると中には
便箋が一枚入っており
そこにはーーーー



『開店を心から待ち望もう
開店の日には
特別な花を贈るとしよう
君にーーー』

とだけ書いてあった

「どういう事ですか?」

不安げな顔で美雨が聞く

けれど、二人とも何も答えれなかった

「これ、岡崎さんに
相談した方が…」

美雨が言うと

「美雨ちゃん、待ちなよ
何でもかんでも警察沙汰というのもさ…
神村さんだって戸惑うよ
ねえ?神村さんどうします?」

美登が神村に振るとーー

「確かに行きなりすぎて
正直、今、動揺してる
前の光景がフラッシュバックするよ
だけど、美雨ちゃんを
また危ない目に合わせる訳には
いかないから
岡崎さんに相談しよう」

「本当にいいんですね?」

美登が確認する

「ああ、前回、脅迫文を無視したがために
あんな事になってしまったんだ
同じ過ちは出来ないよ」

「解りました
じゃあ、今から連絡してみましょう」

そう言うと美登は
以前、岡崎から預かっていた
名刺を引っ張り出し
電話をかけた






そして、その一時間後には
岡崎は美登の事務所のソファに座り
ドーナツをニヤニヤしながら
食べていた