なんとも、微妙な空気の中、唇を切った。



「米田君、話は他でもなく、先日の商談の件。」



目の前の彼は、責任を強く感じているのか、眉間にしわを寄せ、固い表情をしていた。



「結論から言うと、異動になったわ。T支社の企画部への配属が決定したそうよ。正式な辞令は、来週中に下るから。」



飛ばされる、そんな簡単な言葉で片付けられるのは部外者だけだ。



組織の中にいるということが、これほど身にしみて感じることはないだろう。



「色々思うことはあるだろうけど、そこでまた頑張れば、本社に戻ってこれる可能性だってある。あなたは若いし、吸収力もあるから、きっとやれると思う。」




そこまで言うと、私よりも20センチは高い彼が、どんどん頭を下げて、小刻みに震えながら、両手の拳をこれでもかというほど強く握りしめていた。




悔しいんだろう。



やるせないんだろう。



でも、それに逆られば、どうなるかなんてわかりきっている。



だからこそ、その気持ちをぶつける場所がないことに、ただ憤りを感じる他ないのだ。




「...これからよ。今の思いを知ったあなただからこそ、上を目指す力に変えられると思うわ」



きっと、何を言っても今は無駄かもしれない。



それでも、明日はやってくる...だから




「一緒に、頑張りましょう。あなたなら、きっと大丈夫」





こんなありきたりなことしか思い浮かばない上司だけど



悔し涙を見せた米田君は、唇をかみしめて、はっきりと頷いた。



私にできることは、



頑張る人を認めて、そして、自分自身がその人に負けないぐらい頑張ることしかない。