晴明の悪点



 凄絶に笑んでみせた天冥に恐れをなした妖かしどもは、

ひえ、恐ろしやと小心な貴族のように腰を抜かし、おぼつかぬ足取りでそれらは逃げ去って行った。

 貴族でもない小汚いなりをした妖かしが逃げていくのを見ても、当の天冥はちっとも面白みを感じない。

 やはり痛めつけるのは、高慢な貴族に限る。

 もし藤原道長が勢力をふるっていた時代にこの男がいたならば、

道長は有無を言わさず天冥の道楽の犠牲者となっていただろう。

 天冥は、ずるりとその場に座り込んだ。

 つまらぬ。

 百鬼は姿を現さないわ、通りすがりの妖かしどもに茶化されるわで、敵のいない天冥にとっては、

ひさびさに散々な日であった。

(散々だ、くそっ)

 天冥は悪態をつく。

このところ、何をやっても楽しくない。

詳しく言うと―――死人たちが蘇った件の日から、である。

 この、自分の思い通りにならぬ己自身の心情が、異様なまでに気に食わない。

普段であれば、やっていて楽しいことも楽しく感じぬのだ。

異物感が体の内臓にたまっているようだった。

(わけが分からぬ)

 頭を一つ振り、しばらく目を閉じた。

弥生の月であるからか、生ぬるい風が吹き付け、体に滲みこむ。

春にはよく吹き付ける風である―――しかし、温かいというほどほんのりとした風情ではない。

生き物の口内、とも言うべき、生々しい熱を持った風であった。

 む、これは。

 背筋がかすかに粟立つのを感じ、天冥はかばっと立ち上がった。

 妖かしの呪力というのか、気配らしからぬ者がすぐ近くに迫ってきている。

(妖かしか)

 天冥は刀印の矛先をその方向に向けかける。

しかし、ぬう!?とそこで体を大きく跳ね上げた。