「じゃ、もう行くから。またね」
「おー。行ってらっしゃい」
「学校、明日で最後なんだからね。忘れないでよ、特にアレン!」
「わかってるってばー」


離れたところから手を振るレベッカに振り返しつつ、アレンはロイに言う。


「……じゃ、こっちも行きますか」
「……なぁ。殺しの話、聞いた?」
「うん? 連続のあれ?」
「そ。しばらくは、民家はやめとくか」


シガテラではその頃、いつもならば特に珍しくもないはずなのに、殺人事件の話題で持ちきりだった。
というのも、それがもう八件も続いていて、しかも民家に押し入って金目のものまで盗っていく、連続強盗殺人事件だったからだ。

アレンが、小さく「そうだな」と呟く。
強盗殺人鬼と間違われて住人に過剰に抵抗されると面倒だし、命まで狙うつもりで来られては厄介だ。
それになにより、当の殺人鬼本人と鉢合わせするのは、さすがにまずい。

二人が小声で話しているのは、今夜の“ターゲット”のことだった。

明日でピースフォースの学校も卒業するが、ロイとアレンは定職にも就かず、日雇いの仕事とスリや泥棒で暮らしていた。

盗みに入る時は、いつも二人で行動する。
それをレベッカは知っているから、さっきは特になにも言わなかったのだ。


「じゃあ、今日は宿にするか……三番街の新しくできたとこは?」
「いや、まだ鍵も逃走経路も把握してないし。二番街のいつものとこにしよう」
「あー……あそこの用心棒のハゲ嫌いなんだよなぁ、警棒で殴ってきやがる」
「たぶん、ハゲの方が俺らのこと嫌いだろうな。もう何回も入ってるし」


その判断が、二人の今後を大きく左右することになるとは、この時の彼らに、どうして知り得ただろうか。