携帯を取り出し、気付いた。


私は虎鉄とバクの連絡先なんか知らないってこと。そしてメールが届いていたってこと。


≪すんません寝坊した!今向かいます!≫


……だと思った。知らないアドレスだけど受信時刻が7時48分ってなってるし、文面からして虎鉄っぽいな。


さて、なんて返事をしようか。


許さないと打つか、既読無視か迷ったときだった。耳に届いた、やたら楽しげな声と、エンジン音。


「ぎゃっはっは! 飛ばし過ぎ! 落ちるかと思ったべや! スリルたまんねーっ!」

「うるせえっての!! おだって(調子にのって)んでねえぞクソバク!」


振り落とすぞ!と怒りながらスクーターを運転してきたのは虎鉄で、その後ろに乗っているのはバクだった。


「あっ! バンビ先輩おはざーす! 今日もえらい可愛い、ぎゃあ!」


私を少し通り過ぎたところでスクーターが急停止する。


「なしてここで止めんのわ!?」

「うるっせ! 遅刻してすんません先輩っ」

「さーせーん。トラがなかなか起きなくてぇ~」

「ああ!? 俺が引きずり出さなきゃてめぇは今も布団の中だったろーがよ!」

「おいバラすな! 朝から頼んでもねぇのに迎えに来たむさ苦しい男に叩き起こされてみ!? 新たな1日が灰色からのスタートだべや!」

「血まみれからの1日を始めさせても良かったんだぞ」


つまりバクがサボッたら連帯責任になるやも知れんと懸念した虎鉄は、わざわざバクを迎えに行ったと。