ちらっと俺を見遣ったバンビ先輩は困っているようでもあるし、気まずそうでもある。
罪悪感のようなモヤモヤした気持ちが生まれたのは、たぶん、バンビ先輩の表情だけが原因じゃない。
「……嫌な気分にさせたなら、すんません」
俺は訊かれたら話せるし、元カノが嫌いなわけでもねえけど、進んで話したい内容ではなかったから、謝った。
バンビ先輩はぽかんとしてから口元を手で隠し、顔をほこらばせる。
「ふふっ。虎鉄、素直」
この人ほんと、可愛いな。
「まあ気になることには気になってるんすけど」
「女子のあいだでは越白先生って有名なんだけどねぇ」
コシジロっつーのか。有名って、どういう意味で?
あー……たらしか。っていうより、来るもの拒まず?
食堂に向かいながら、保健室らしからぬインテリアや校医の言動を思い返せば、なんとなく察しがついた。
「ていうか虎鉄、私の指を押し潰してきたのはなんだったの? ほんとに痛かったんだけど」
「さっき言ったじゃないっすか。先輩がやたらエロくて無性に腹が立ったんで、つい。すんません」
「それ理由になるの……? ちっとも意味が分からない」
なして分かんねえのや。
「手当てされてるときの先輩と、俺に変なこと考えんなって言った先輩の反応見たら、いかがわしいこと考えるじゃないっすか」
「いや私考えないでって言ったよね」
無理だろ。そのあと『名前で呼んで』だの『焦らされるほうが好き』だのって聞かされたんだぞ。それ完全にinベッドの話だろ。
思い出しただけでも腹立つっての。



