「――いっ……!」
俺は絆創膏が巻かれたバンビ先輩の中指と薬指の腹を、ぎゅっと親指で押し潰した。
歪んだ表情から一変、元から潤んでいるように見える丸い瞳が、弱々しく俺を睨む。
「痛い! 何するの!?」
「誰のせいっすか」
「は!? 私が何をした……って、虎鉄!?」
保健室の戸口を乱暴に押し開け、廊下に出る。
背後ではバンビ先輩が校医と何か話してから、ぱたぱたと早足で追い掛けてくる。が、俺は待ってやらねえ。
「虎鉄っ? 急になんなのよっ」
むしろもっとイジめてやりたいくらいだっての。
歪む表情とか、潤む瞳とか、弱々しい睨みとか。標準装備? 常に正常起動? タチわりぃな。
「ねえってば! 何怒ってるの!?」
足を止めれば、数秒遅れでバンビ先輩が隣に追いついた。少し頬を紅潮させ、息も乱している。
「エロい」
「……、はい?」
「怒るに決まってますけど。先輩の可愛さどこ行ったんすか。ただただエロいって、それただの公害っすよ」
「はあ!? だから、そういうこと言わないでってば! 私の可愛さは変わらずここにあるでしょ!」
「自覚ないとかやってられねえっすわ」
「やってられないのは私のほうですけど!?」
意味が分からない風なバンビ先輩は眉を寄せる。
保健室での出来事を振り返れば分かるべや。
とは言え、理解して再び赤面されちゃ、思春期な俺はもうたまったもんじゃねえ。
「誤解だからっ!」
俺まだ何も言ってねえし。



