「僕らいつもこんな感じだから気にしなくていいのにね、楓鹿」
「僕ら!? 先生は誰にでもそうでしょう! あといい加減に呼び捨てやめて!」
「でも、あんなに名前で呼んでって、」
「ああああああ!!! なんの話だっけ忘れちゃったなあ! それより早く消毒して先生!」
「泡と液体の消毒液があるよ。どっちにしてほしい?」
「どっちでもよくない!?」
「でも楓鹿、こういうのは焦らされるほうが好きじゃ、」
「消毒液の話だよね!? 消毒液の話だから!」
まだ何も言ってねえけど。
手の平を俺に突き出してきた先輩は、何やら焦っている。
「もう自分でやるからいい!」
さっきまで完全に身を委ねていた割に、今度は自ら進んで事を運ぼうとしている。
焦らされるほうが好きなんじゃねえんすか、バンビ先輩。
なんで液体選んでんすかね。ネチネチ責めてくる泡タイプのほうが、焦らされ好きの人には向いてるんじゃないっすかね。絆創膏はゆるめに巻いときゃいいんじゃないっすかね。取れちゃったとか言って、また保健室に来れますからね。保健室っぽくないとはいえ、ベッドはありますしね。
ほんと、どうしてくれんだよ。この煩悩。
「虎鉄、顔……怖いんだけど」
手当てを終えたバンビ先輩が惑いながら俺の前までやってきた。
他の女子よりも小さく白い手を取れば、バンビ先輩の顔に疑問の色が浮かぶ。ここで首なんか傾げられたら、きゅうの場合すぐに呼吸困難だろうが。



