送り出したバンビ先輩が校医と向かい合うのを見届けたあと、周囲を眺める。
ここ保健室だよな? 独特のにおいもしねぇし、香水くせえ……っておいマジか。保健室の花瓶に赤いバラっておかしいべや。もっと控えろよ。なんでカーテンもベッドシーツもテラッテラ光ってんだ。色も薄ピンクって、はあ? 白か薄い黄色にしとけよ、落ち着かねえな。
「ほら、入っちゃってるよ」
どこか甘ったるい声の校医に目を遣る。が、無性に不快さを感じるので時計を見上げて待つことにした。
「ここ、僕に見えるように自分で拡げてくれる?」
「うん……そっとね。痛いのやだ」
「じゃあ力抜いて……そう、いい子」
「いっ、」
「大丈夫、ほら。こっちに集中すれば、」
「ラブホか!!!」
思わず突っ込めば、バンビ先輩は瞬時に顔を赤くする。
「な、何言ってんの虎鉄! バカじゃないの!?」
「バカは先輩っすわ! こんな保健室らしからぬ部屋でなんつー会話のやりとりしてんすか!」
入ってるだのなんだの情事中のカップルか!
「へ、変な想像しないでくれる!? ここ確かに保健室っぽくはないけど……っやだもう虎鉄、最低!」
赤面してちゃ、変な想像されても悪くないって言ってるようなもんじゃね? どうなんだよ、実際。
視線を送る相手を変えれば、校医は縁なし眼鏡の奥で目を細めた。そして焦げ茶の癖がない髪を揺らし、くすくすと控えめに笑う。



