「すんません」

「はーいバンビ先輩! そっち手伝えってことっすね!?」

「おいバク! 先輩に近づくなでば!」


一瞬たじろいだバンビ先輩だが、早々にバクがたどり着くと諦めた表情を浮かべた。それを見て、足が止まった。


「じゃあ水拭きするから。バク、雑巾になってよ」

「えっ……持ってきてじゃなくて?」

「水拭きだから全身濡らしてきて。ハリーアップ!」

「いいっすよ? バンビ先輩がびしょびしょになった俺を見たくて、そんな俺に触りたいってことなら、喜んで!」

「……やっぱ何もしないで。想像したら気持ち悪かった」


ふるふると首を振ったバンビ先輩に、バクは「えー」と言いながら笑っている。にやにやとしてはいるが、フラストレーションを解消したいはずのバクが、笑っている。


なんだかんだ仲良くなってねえか? バンビ先輩もいい加減バクの扱い慣れてきたって感じだし。


つーことは、だ。バンビ先輩に守る宣言した俺、いらなくねえか。5回目にして? はえぇな、おい。


なんとなくむかついた俺は、バクの背中に膝蹴りを食らわせた。




「――痛っ!」


3人で持ったはずの長テーブルがぐらりと揺れる。隣にいたバンビ先輩が両手を引っ込めたからだ。


「どうしたんすか」


「うぉい!」と向かい側のバクが怒ったのは、俺も長テーブルから手を離したせい。


バンビ先輩の手を取ると、中指と薬指の腹から血が出ていた。


「うわ、切れてんじゃん」

「なんか刺さったぁ……」