「終わった?」

「ひっ!」


急に右側から覗き込んできた李堵先輩に飛び上がる。


「なな、な……っなんでまだいるんですか!」

「俺が今遊びたいの、楓鹿だから」


こっちは存在ぽっかり忘れてましたから!


ばくばく鳴る心臓。胸を抑えると、李堵先輩の手がするりと左肩に回された。瞳を覗き込まれる至近距離で、李堵先輩は目元に微笑みを帯びる。


「なあ楓鹿。もう1回俺と、」

「気安くバンビ先輩に触ってんじゃねええええ!!!」

「ひぎゃーーー!!!」


言い表せない音と一緒に、目の前で端正な顔がっ……歪んだ!? 分かんないけど李堵先輩、半目だった! 気持ち悪っ!


何が起きたのかすぐに理解できたのは、きゅうちゃんが「消え失せろ!」と、李堵先輩に暴言を吐いたからだった。


「今後1度でもバンビ先輩の半径50メートルをうろちょろしてみろ! 潰す! 初めての男だろうが潰す!」


何を? ……どこを? ていうか初めての男とか本当にやめてほしい! 事実だけどって考えただけで四肢がもげそうになるから! そもそもなんで1年生のきゅうちゃんが知ってるの!? そんなことまで調べ上げるほど私が好きってこと!? そのタブレットは情報通の証!?


だとしても今は、それで何度も人を殴るっていうのはどうかと思うんだ。やっぱり猛獣と珍獣の友達は怪獣じゃないと勤まらないのかなって思うんだ。


しーんと静寂に包まれた体育館の床には、男子高校生(18)が気絶している。


大嫌いな2人目の元カレとはいえ、不憫。