「汗かいてるからやめてよ」

「大丈夫、いい香り!」

「見ちゃった」

「……見なかったことにしてほしい」

「トラすごかったね。楓鹿のこと軽々持ち上げて、身長差もあるしどっちが先輩なのか分かんなかったよ」

「やめてよー……。後輩に子供扱いされたんだから」


ミーアの肩に頭を寄りかからせると、「ふぅん?」と楽しげに疑うような声が落ちてくる。


「言っとくけど、何も楽しくないんだからねっ」

「でも、また頭から抜けてたでしょ」


元カレのこと。なんて、私よりも分かっているように言うから悔しくて、頬を膨らませる。


「ミーアだって虎鉄とバクと関われば分かるよ。すっごい疲れるんだから」

「それがいいんじゃん」


くすり。笑ったミーアは私の頭に頬を寄せる。


「楓鹿は、元気なときが1番可愛い」

「……ミーアと付き合いたい」

「蒸発してでも断る」


ひどい!! 冗談にのってくれる割に拒絶し過ぎだよね!


「んむぅうううう」


唸りながらミーアの二の腕にぐりぐり頭をこすりつけると、「ハイハイ」と適当にあしらわれる。でも離れていこうとはしないから、私はバドミントン部の休憩が終わるまでミーアにべったりだった。


そのあと再び虎鉄とバクがいるステージにあがり作業へ戻ったけど、抉られたはずの傷はもう痛まなかった。


だから、ふたりと出会ったことで失恋から立ち直りつつあるというミーアの妄言は、事実だったと認めてあげなくも、ない……かな。



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