おかげで今の私は『可愛いだけじゃない』って言われるようになったのなら、嬉しいと思う。
だけど得たもの全てが、いつだって自分自身を高めてくれたわけじゃない。幸せに、してくれたわけじゃない。
「私にだって、努力しても勝てない子はいるんだよ」
たくさんいる。きっと山ほどいる。
「なんでも上手くいくと思ったら大間違いなんだから」
「……俺なんか気に障ること言いました?」
「傷を抉られた」
「は? なん、……いつの傷っすか」
「数年前から最近の傷まで抉られたっ!」
「いや、ちょっと意味が……なんすか。情緒不安定っすか」
――ベシッ!と虎鉄の顔に雑巾が当たる。投げ付けたのはもちろん私。
素知らぬ顔で作業に戻ろうとして、雑巾がなきゃ何もできないことに加え、自分の行動がいかに衝動的なものだったかを思い知る。でも虎鉄と顔を合わせたくなくて、俯いてじっとしているしかなかった。
情緒不安定なんかじゃない。落ち込んでいるだけ。イライラしているだけ。
ここ最近、きれいさっぱり忘れていた元カレのことを、思い出しちゃっただけ。
もう本当に嫌んなる。
2週間前までは彼とメールや電話をして、学校でも家でも私自身は爛々として満たされていたはずなのに。
今はひとかけらだって残っていない。一抹も生み出せない。
そんなことで、まぶたに熱を感じる自分はもっと嫌だ。



