「先輩は可愛いだけじゃねぇってことっすよ」
「……、」
胸の奥で波紋が起こる。
なんで今、そういうこと言うかなぁ……。
「俺、嘘つかないっすよ」
「はは。それ昨日も言ってたね」
「先輩って努力の人じゃないっすか。いくら可愛くても全部が天然ものじゃないってことくらい、見てりゃ分かる」
「……」
「化粧とか痩せたいとか、俺にはよく分かんねぇけど。髪は気ぃ遣ってなかったら、そんな艶ないと思うんすよね」
ガシャン。隣からパイプ椅子を重ねる音が届く。
「運動は元々センスいいんだろうけど、運動だろうが勉強だろうが、サボった分だけ痛い目見るじゃないっすか。だから常に一定のラインを保ってる先輩って、すげぇと思う」
……やっぱり虎鉄って、違う。そんな風に気付いてくれる人は多くない。そんな風に言ってくれる人は少ない。
嬉しい。嬉しいのに……。素直に受け止められなくて、努力したって報われないじゃんって嘆く自分がいる。
「一定のラインを保ってるから、なんだっていうの……」
ムラだらけだよ、本当は。
期待に応えたいって思う時もあれば、何もかもどうでもいいって思う時もあるんだよ。
自分のために、誰かのために頑張ったことは必ずしも、いい結果に繋がるわけじゃなかったから。
『可愛いだけ』『中身がない』『顔だけじゃん』
そんな言葉は聞きたくなくて、勉強も運動も目指すのは平均以上だった。料理も掃除も褒められるくらいには覚えた。
同時に鏡を見て、体重計に乗って、雑誌を読んで、可愛くいようとした。



