はあ、と溜め息を零しながら俺の胸に顔を埋めるバンビ先輩の後頭部を撫でた。


「先輩。もう気付いてると思うけど、拒絶するたびコイツは調子上げるんすわ」


薄笑いを浮かべるバクを白い目で見つめる。


「仲良くしてとは言わねーから、毛嫌いして避けるのは我慢してもらっていーっすかね」


それすらもバクを調子に乗せる要因だが、バクに『大人しくしてろ』と言い聞かせるよりは遥かに早い。


「それさえ我慢してくれりゃ、あとは俺がなんとかするんで」


ぽん、と。二度ほどバンビ先輩の頭をたたく。しかしまだ疑っているのか顔を上げてくれない。


「俺、嘘つかねーっすよ」

「……」

「先輩? ちゃんと守りますって」


俺までそんなに信用がねぇのか。なかなか縮まらない距離に眉根を寄せれば、やっとバンビ先輩が顔を上げた。


安堵した一刹那、頬を染めているバンビ先輩に息を呑む。


は? ……なしてはにかんでんのわ? 俺なんかした?


そこでハッと、自分の手がバンビ先輩のうなじに掛かっていることに気付き、身の潔白を証明するために両手を挙げた。


というのに、ドンッと胸に重い頭突きを食らい「ぅぐっ」と声を漏らす。


「絶対だからね!?」

「アハハハハ!!! バンビ先輩ナイス! ブハハハ!!!」

「アンタは誰よりも多く掃除しなさいよ!」

「あー。待ってよバンビせんぱーいっ」


なぜか立ち去るバンビ先輩と、それを追い掛けるバクに為す術がない。


ごたごたに収まりが付くかと思えば……なんだこれ。不満だ。


飼い犬に手を噛まれた気分の俺は、なぜ頭突きを食らったのかと首をひねった。



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