「しなくていい、って近い近い近ぃいいいい!!」

「バンビすぇんぷぁ~いっ」

「バク! ふざけんのも大概に、」

「ギャーーーーッ!!!!」

「先輩うるせえ!」


人一倍どたばたと騒がしかったバンビ先輩はぴたりと止まり、三つ巴かってくらい組んず解れつの揉み合いは十数秒で終わった。


しかし、がっちりと俺にしがみ付いていたバンビ先輩は『信じられない』という顔をして見上げてくる。


まるで理由も分からず叱られた子供が今にも泣きそうなそれに見え、


「離れねぇから、まず落ち着いて」


とっさにバンビ先輩の頭を引き寄せると、その小さな頭が胸先に接触した。


「やだー。抱き寄せるとか、トラってばセクハラァ」

「てめぇはあとでブッ飛ばす」


バクはけらけらと笑うだけで反省の色など見られない。


マジでろくでもねぇな。扱いを知り抜いているとはいえ、人をおちょくることが大好きなバクをこのまま放置しとくわけにもいかない。


「とりあえず存在してることを謝れ」

「えっ……。それはいくらなんでも言い過ぎじゃね?」


いいから謝んだよ! ギロリと睨めばバクは肩を竦め「すみませんでした」と口にする。


「もう先輩の嫌がることはしねぇって誓え」

「ハイハイ、分かった! 分かりましたーっ」


嘘くせぇ。

両の手の平を見せ降参したように見せているが、信用できねぇ。元からバクに対する信用なんて米粒みたいなもんだけど、胡散臭さが半端ねぇ。


それはきっとバンビ先輩も同じだろうと思う。こんなことを2週間も繰り返されたら堪ったもんじゃねえと思う。


……不憫だけど、仕方ねぇべ。