「守ってくれるって言ったでしょ」
「……、」
思わずしゃんと姿勢を正したのは、YESの意だった。
前に向き直った俺は口を押さえ、気恥ずかしさでいっぱいになる。
背中に寄り添ってその言葉はまずいだろ。わざと? 分かってやってんのか? 無意識だったら超タチわりぃ!
言われなくとも守る気ではいたが、バンビ先輩の色香に惑わされ気味な俺って実は、とんでもない人と出会ってしてしまったんじゃないかと思った。
「部室棟のほうは終わりましたよーっ」
目の前で立ち止まったバクは、俺の背に隠れるバンビ先輩を覗き見るように腰を折った。しかしバンビ先輩は俺の左側に移動し、バクと距離をとる。
だから、可愛すぎんだろ。
「おいバク。もっぺん掃除してこい」
顎で部室棟のほうを差すとバクは眉を顰めたが、すぐに目を細め、にたりと笑みを浮かべた。
「トラ、まさか本気じゃねぇべ?」
「うるせえ知るか。いいからあっち行け」
「気に入らねぇわー。俺はバンビ先輩に嫌われて、トラが独り占め状態?」
「どの口が言ってんだ。てめぇは自業自得だろ」
「じゃーあー……。イメージアップに励めってことっすね!」
「ひぎゃーーっ!」
俺の左腕を押し退け身を乗り出したバクに、バンビ先輩はおぞ気立ったのか絶叫した。
「おいバクッ! 先輩に近寄んなっ」
「こっちに来ないで!」
「だって嫌いってことは好かれる努力しろってことじゃないっすか!」



