視界にはタワシから跳ねた水滴と、顔を赤くするバンビ先輩の姿。
「昨日はどうもすみませんでしたっ!」
ぷっとまた吹き出してしまった。
「何がおかしいの!?」
「いや? そういうとこは普通に可愛いなーと」
バンビ先輩は勘違いしたことがよほど恥ずかしいのか、着ているジャージと同じくらい真っ赤になっている。
「アンタ……っもう! 突っ立ってばっかいないで掃除しなさい!」
「先輩が俺のこと避けるからじゃないっすか」
「だからもう謝ったでしょー!?」
「最初から怒ってませんって」
くつくつと笑いながらタワシを拾い上げる。バンビ先輩はむつけたままそれを受け取り、掃除に戻った。
……悪くねえ。
美化運動が気だるいのは変わりないが、先輩に会えるから今回の処分はむしろ楽しいほうだ。
「バ~ンビせんっぱーい!」
バクさえいなきゃな!
チッと舌打ちをするくらい苛立ったものの、大急ぎで俺の背中に隠れるバンビ先輩に癒された。
おい可愛すぎるだろ。
控えめにジャージ掴むのやめろ。可愛すぎるだろ。
歩み寄ってくるバクから目を離すつもりはなかったのに、どんな顔をしているのか気になって頭を振り向ける。
気付いたバンビ先輩は不安げに俺の顔色をうかがうと、決まり悪そうに口を尖らせた。



