立ち上がった大きな背中を仰ぎ、ぽかんと口を開ける。
なんか今さらっとすごいこと言った? ていうかこの子、見た目を裏切らない男気のある子?
「トラァ! おめぇ俺を顎で使っといて、ひとりだけおいしい思いしてんでねーぞ!」
「おい、ごしゃぐな」
「誰もいねーからってバンビ先輩とエロいことしてたんじゃねぇだろうな!」
「どう見てもしてねぇべや」
「はあ!?」
「あと先輩に近付くな」
「はああん!?」
「はあ……うぜえ」
あー……なんか、うん。バクってやつがちょっと分かった気がする。
とりあえず人をからかいたいっていうか、相手がムキになって反論してくれば尚楽しいっていうか。
根っからの悪ガキでいたずら好きって感じ。
「っだよもー。つまんねぇなやあ。トラ相手じゃ骨折り損だわ」
「バクのちょっかいにいちいち反応するほうが骨折り損だっつーの」
なるほど。感心してしまった私は、ふと会話を続けるふたりに疑問が浮かぶ。
「虎鉄って、」
「え?」と同時にふたりが驚くから、私まで「え、何っ」とたじろいでしまった。
「ちょっとちょっとバンビせんぱーい! なんすか虎鉄って! トラじゃなく虎鉄って意味ありげっすわー! いつの間に呼び捨てにするくらい仲良くなったんすかぁ!? 俺がいないあいだに、ま、さ、かっ?」
わぁ……鬱陶しいことこの上ない。
にやにやしながらむふふと笑うバクは、虎鉄が顔面に裏拳をかますことで征した。



