「なんか、うまく丸め込まれた気分」
「はあ? 何言ってるんすか。先輩が折れなかったら、俺何したか分かったもんじゃないっすよ」
怖いわ! ホント何する気だったのあなた!
「土下座しなきゃいけねーかなとか」
そっち!?
意外すぎる方向性に突っ込み疲れ、深く息を吐く。
なんか……思ってた人物像と違う。
「蕪早虎鉄ってさぁ、」
「トラでいーっすよ」
「……なんでトラ? 名前に虎って入ってるから?」
「あー。それもあるけど、昔からやんちゃで『猛獣だ』『野獣だ』とか言われて、そこからっすね」
「昔からヤンチャー……」
「いや何無理やり繋げようとしてんすか。ヤンキーじゃねぇって何回言やぁいいんすか俺は」
「だって見た目も口調も怖いし……だから意外にも礼儀正しいっていうか。謝ってくるとは思わなかった」
「だから俺やさしーほうだって言ったじゃないっすか」
それだけで信じる人がいるならオレオレ詐欺に気を付けてって言ってあげたい。
まあでも、見た目で判断したことはちょっと反省。
「――あ!? おいトラ! 抜け駆けしてんじゃねーよ!」
「うげぇ……」
「うるせえこっち来んな」
ぼそっと漏れたふたり分の拒絶反応は、軍手やゴミ袋を取って戻ってきたバクに対するもの。
「先輩、あいつは存在してないものと見ていーっすよ」
「でも正直2週間も無視できるか自信ないんだよね」
「じゃあ俺が守るんで安心してください」



