べつに、蕪早虎鉄がせっかく歩み寄ってくれたんだから、とか思ってるわけじゃない。断じて思ってない。むしろもっと反省しやがれくらいは思ってる。心底思ってる。
ちらり。隣を窺うと、蕪早虎鉄も私を見ていた。
その瞳の鋭さに一瞬どきりとしたけど、浅く息を吸い込むことは忘れなかった。
「代わりに殴ってくれてありがとう」
「……」
「頼んだ覚えはないけど」
目を逸らすと蕪早虎鉄は吹き出す。
「ははは! なんすかそれっ」
「だって私の返事を聞く前に殴ったじゃん」
何がそんなにおかしいのかと蕪早虎鉄を見れば、俯いて「あー」と納得しながらくつくつ笑っている。
そして険を纏う瞳はいつも、私を映すと少しだけ柔らかくなる。
「俺のイメージ、変わりました?」
言葉に詰まったのは、直球すぎる質問のせい。
にんまりと満足げに口の端を上げているんだから、絶対わざと訊いてるんだ。
年下のくせに、生意気……!
「今までのことは、チャラにしてあげてもいーけど?」
「なら俺と先輩がいがみ合う必要はないっすね」
え? あっ……! そういうことになるのか!
うわー先輩風なんか吹かさなきゃ良かった。
ちょっと後悔したのに、蕪早虎鉄が顔に似合わず可愛い笑みを浮かべるから、反論する気になれなかった。



