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なんでかひとり残ったと思ったら、蕪早虎鉄がこっちに来てるっぽいんですけど。いや明らかに来てるんですけど。
巨人の足音みたいなズシン、ズシン、とかいう幻聴まで聞こえてきそうなんですけど。
冷や汗が出始めても動くことのできない私は、一心不乱に花壇に生えた雑草を見つめていた。
何をされたって逃げる準備は整っている。中庭の隅っこにいる私の横には、開け放たれた窓がある。
校舎に逃げ込むも良し。窓に向かって助けを求めるも良し。花壇の土を掴んで投げ付けることだってできる!
「先輩」
びくっと肩を強張らせた私は顔を上げて驚く。
目が合った蕪早虎鉄は、1m以上距離を取っていた。
「先輩。俺、何もしないっす」
「え? や……べつに、私は、」
あからさまに避けていたので言い訳が思い付かず、目を泳がせることになった。
「なんすか。そんなに俺のこと怖いんすか? 何もしませんって」
「いや怖くないって言ったら嘘になるけど、」
「俺やさしーほうっすよ」
「だから何よって話だけど」
「話せば分かると思うんすよ」
「話すのも嫌っていうか」
「とりあえず話を聞いてほしーんすわ」
「聞く耳を持つと思ってるなら大間違いっていうか」



