オリガク! -折舘東学園の日常的(恋)騒動-


◇◇


なんでかひとり残ったと思ったら、蕪早虎鉄がこっちに来てるっぽいんですけど。いや明らかに来てるんですけど。


巨人の足音みたいなズシン、ズシン、とかいう幻聴まで聞こえてきそうなんですけど。


冷や汗が出始めても動くことのできない私は、一心不乱に花壇に生えた雑草を見つめていた。


何をされたって逃げる準備は整っている。中庭の隅っこにいる私の横には、開け放たれた窓がある。


校舎に逃げ込むも良し。窓に向かって助けを求めるも良し。花壇の土を掴んで投げ付けることだってできる!


「先輩」


びくっと肩を強張らせた私は顔を上げて驚く。


目が合った蕪早虎鉄は、1m以上距離を取っていた。


「先輩。俺、何もしないっす」

「え? や……べつに、私は、」


あからさまに避けていたので言い訳が思い付かず、目を泳がせることになった。


「なんすか。そんなに俺のこと怖いんすか? 何もしませんって」

「いや怖くないって言ったら嘘になるけど、」

「俺やさしーほうっすよ」

「だから何よって話だけど」

「話せば分かると思うんすよ」

「話すのも嫌っていうか」

「とりあえず話を聞いてほしーんすわ」

「聞く耳を持つと思ってるなら大間違いっていうか」