「あー。おっせぇよトラ! 何してたんだよー」
中庭に着くと、上着を脱いでTシャツ姿になっていたバクが眉を寄せる。ゴーレムは職員室に戻ったようだ。
「きゅうに捕まった」
「げ。うわー気付かなくて良かった……って、何。頭なしたの。きゅうに殴られたんか、ダセェー!」
側頭部を押さえる俺にげらげら笑うバクの足を蹴り、バンビ先輩の姿を探す。
「……遠っ」
思わず口にしてしまうほど、バンビ先輩は中庭の隅にしゃがんでいた。
教室3つぶんはある広さだってのに……俺らに背を向けていないのは、せめてもの警戒心からか。
写真だの言ってる場合じゃねえな。
どうすんだ、これから2週間。
「で? 俺らは何すりゃいいんだ?」
腕まくりをしながら聞くと、バクは欠伸をこぼす。
「知らね。バンビ先輩は見ての通りだし、俺もう帰ってよくね?」
「ゴーレムになんか指示出されなかったのかよ」
「草でもむしっとけ」
「……軍手とゴミ袋もろもろ、取ってこい」
「はあー? なして俺がっ」
「いいから行けでば!」
ケツを蹴っ飛ばして睨むと、バクはぶつくさ言いながらも校舎へ向かった。その姿を見送ったあと、腰に手を当て今日何度目か分からない溜め息を地面に落とす。
問題は山積みだが、とりあえずバクは追い払った。これで少しはまともに会話できるだろ。
「――行くか」
両手で額を押さえた俺はそのまま髪を後ろへ撫でつけ、ぐっと顔を上げた。



