「でも、また同じようなことになったら……なる前に、私は躊躇なく、きゅうちゃんという武力を行使するから」
「肝に銘じときますけど、先輩も覚えといてください。また変な男に引っ掛かったら、バクという悪玉菌を試験投入するんで」
「相手が散々すぎる……!」
「バクもたまには役に立つってことっすよ」
今こうなってんだし。と、虎鉄は私の頬をその手で包み込む。
小指が顎の下に掛けられたのが分かって、持ち上げられるがままに顔を上げれば、すぐそこで虎鉄が微笑んでいた。
「俺史上最高の彼女になるって、もう取り消せねえから」
「……取り消すつもり、ありませんけど?」
受けて立つわよ。
ひと癖もふた癖もあるバクやきゅうちゃんが何をしてこようと。巻き込まれようと。他人事だからって楽しむミーアとミヤテンが焚き付けてこようとも。
「虎鉄だって覚悟してよね」
私の元カレは曲者揃いだし、家族だって貢ぎ癖が悪化する一方なお父さんを始め、一筋縄じゃいかないんだから。
虎鉄は含み笑いしたあとキスをひとつ落としてくるだけで、返事はくれなかった。
だけど私の手を取って歩き出した虎鉄の背中は、なんだかとても頼もしくて。思わず飛びつきたくなるほど、わくわくした気持ちでいっぱいになった。
今の私を見て、幸せそうって思ってくれる人は何人いるのかな。
なんて、考えたりもしたけれど。
私たちの交際はまだ、始まったばかりなのだ。
【END】



