「お邪魔します……」
「階段上ってステッカーだらけのドアが俺の部屋。飲み物テキトーでいいっすか」
「あ、水でいい」
水!? 階段を上っていくバンビ先輩のうしろ姿を凝視して、そういや普段は水ばっか飲んでるなと思う。
バクやきゅうはコーラだのお茶だの出せと言ってくるし……、元カノは紅茶だったか。ねえって言ったら、じゃあなんでもいいって返されたんだよな、確か。そんで適当に持ってって…………いや何を思い返してんだ。
過去振り返ってどうすんだ俺。
ふたりきりなんて今に始まったことじゃねえべや。
いやでも、こんなあっさり家にあがってくるとは思ってなかったっつーか。多少なりとも警戒したり緊張すんのかと思ったら、平然と水でいいって。
慣れてんのか。慣れてんだな。ちょっと心拍数上がってる俺のがよっぽど可愛、くねーよ気色悪っ!
バンッと乱暴に冷蔵庫を閉め、思いの外テンパり気味な自分を落ち着かせる。
ごちゃごちゃ考えんのもめんどくせえ。その場任せだ。なるようになれ。
部屋に入るとバンビ先輩はベッドを背もたれに携帯をいじっていた。親父が使う水割り用のミネラルウォーターがあったので、それを注いだグラスをローテーブルに置けば、礼が返ってくる。
俺は学ランの上だけ脱ぎ捨て、拾い上げたリモコンでテレビをつけてから腰を下ろした。



