「やべ。忘れてた。今日スクーターで来たんすよ」
「えー……怖いし見つかりたくないからふたり乗りは嫌」
「とりあえず門閉まる前に出さねえと。オリオンまで歩きでいいっすか? そっからバス乗ればいいべ」
バンビ先輩の手を引いて、駐輪場へ歩き出す。存在を忘れていたキーをポケットから取り出すと、
「スクーターだけ先に虎鉄の家に置いてくればいいんじゃない?」
と、バンビ先輩は言ってくる。
どんだけ俺に家とオリガクを往復させる気だ。
歩きでも10分そこらで着くし、いいけど。
「素直にもう少し俺といたいって言ったらどうすか?」
「はあ!? な、何そのポジティブさ! 李堵先輩みたいっ」
「オイ。もっとも例えちゃいけねー奴だぞ」
「虎鉄のほうこそ、自分を棚に上げて私に言わせようとしたのバレバレなのよっ」
「まあ、そーっすね。今日明日くらいスクーターなくても困んねえし。まだ帰したくねぇなとは思う」
トランクにバッグを詰め、キーシャッターを解除する。
バンビ先輩のバッグは皮製だから入れないほうがいいよな。顔を上げると彼女の顔がほんのりピンク色に染まっていた。何を照れてんだ。
「先輩って結構、顔に出るタイプっすよね」
「出てないし!」
「なして否定すんのわ? 認めりゃ可愛いが持論だべや」
「バカにしてるの!? 分かったやり直す。――え、そんなことないもんっ……出てないよね?」
「はあ……?」
眉を顰めた俺の額がスパーンッとはたきつけられる。



