「~っもう! 離してっ……てば!」
バンビ先輩が本棚から教本を引っ張り出し、投げ付けた。
「あっぶね! バカ、やめろっ」
「うるさい! しつこい! 今度また私に近付いたらこんなんじゃ済まないからね!? 私には近々付き合う人がいるんだからっ!」
「は? 誰だよそれ、」
「いいから出てって!」
次々と教本を投げ続けるバンビ先輩に李堵は「分かったから投げんなって!」と後退していき、不服そうな顔をして俺に目を遣ってから、資料室を出ていった。
さわさわと周囲の木々を揺らす風が吹き、どこからか吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
俺は頬杖をつき直し、バンビ先輩の少し丸くなった背中が振り返るのを待っていた。
「……褒めて」
床のいたるところに本が散乱している資料室に佇む彼女の目は、うっすら涙ぐんでいる。
「ひとりで追い返したんだから、褒めて」
李堵はしつけーし、俺は助けてくれねえし、バンビ先輩からしたら泣きたくもなるわな。
よくできました、って言ってやらなくもねえが。
「にやにやしてないで褒めてよ!」
すぐこれだ。欲しがりめ。貰う前に俺によこせ。
「先輩が好きな奴と付き合ったら、これでもかってくらい褒めてやりますけど」
ん? 今のじゃ俺が何かしら与えちゃったことになんだいか。……まあいいべ。
顔を赤くしたバンビ先輩がようやく、俺を1番にしてくれるんだからな。
「……っ私、なるから」
「は? なるってなんすか」
「虎鉄史上最高の彼女になるから。ていうか私以外ありえないから」
「…………」
なるから? なりたいでねく? え、つーかそれ目標? 俺の彼女になるから宣言? もはや決定事項?



