「とりあえず離して!」
押し黙っていたバンビ先輩はようやく李堵に顔を向け、抗議を再開していた。
「なんで? アイツ見てるだけじゃん。気にすんな」
「気にしますけど!? ていうか誰が見てなくても李堵先輩とは嫌っ!」
「今さら嫌とか。おまえの初めては、」
「ぎゃーーー!! 嫌だもう本当に最低っ! 私に触らないで!」
「分かったから落ち付け。暴れんなって」
代わりに俺が暴れたいくらいなんだが、ここは我慢だ。
李堵はようやくバンビ先輩から離れたものの、その手は掴んだままでいる。しつけー…。バンビ先輩も振り払う努力はしているようだが、報われねー…。
どんだけ力ねえんだ。その距離ならバクにお見舞いした蹴りを繰り出せるだろ。なして蹴飛ばさねえのや。
案外、保守的だよな。強気だし、思ったことは口に出すから言い争ってることも多いし、積極性に欠けるとは思わないけど、過度な冒険はしないっつーか。
これ以上はどうなるか分からないと思ったことに関しては踏み止まり、手を引いてもらえるのを待っている。
口に出すならいい。ただ、連れ出してくれという素振りを見せるだけなのが気に食わねえ。それはもう受け身じゃなく、丸ごと人任せにしているだけだ。
ほんと、腹立つ。
俺は攻めの姿勢を崩さなかった。口先だけじゃねえって証拠まで見せた。いい加減、認めろよ。自分が1番じゃないと腹が立つなんて俺も同じだっての。
さっさとその男を追い返して、俺が1番だと、言え。



