それはそれは美しい微笑みがキスされる間近で崩れたのは、私が頬をつねったからだ。力の限り、むしろ引き千切るくらいに。
「いってえ!」
俊敏に顔を引いた李堵先輩は私の手から逃れる。
「調子に乗りすぎ。無理って言ってるじゃん」
いい加減にしてほしい、と。うんざりしていることを表すための溜め息は短く、体はかすかに震えていた。
強がりだと自覚しているそれが、一瞬で吹き飛ぶ。
「はあ!?」
李堵先輩に悟られないようにと顔を向けた先に、虎鉄がいた。
資料室の窓の向こうに立っていた虎鉄は、今来たって感じじゃない。サッシに頬杖をついて気だるげな眼差しでこっちを見ていた。
「はあ!?」
「……なんすか」
なんすか!? なんすかじゃないでしょうよ!
「何やってるの!? いつからいたの!?」
ちょっと考えてみたけど、虎鉄がそんな顔でそんなこと言うのはおかしいんじゃない!?
「どうなるのか、見届けようかと」
私の驚愕など意に介さず、虎鉄はサッシに頬杖をついたまま動こうともしない。
「見てないで助けなさいよ!」
「嫌っす」
「はあ!?」
「俺が助けなきゃいけない理由がないんで」
「あるでしょお!? それでも男なの!?」
こんな場面に遭遇したら止めに入るような男でもあるでしょ! おかげで『はあ!?』を3回も言っちゃったじゃない!



