振り返ると資料室に入ってきた李堵先輩が笑みを浮かべて歩み寄ってきたところで、思わず自分を抱きしめる。


「なな、何してるんですかここでっ!」

「何って、次はここ頼まれたから来たんだけど。楓鹿がいて、」

「アンラッキーですね! もう終わったのでやることないです!」

「床めっちゃ汚ぇじゃん。俺こういうのすげえ無理」


でしょうね。きらきらピカピカの豪邸に住んでいるあなたですから。それそれは清浄な空気をお吸いになられていらっしゃるんでしょう。


今日言い渡されたであろう草むしりなんて、あなたにとって屈辱に他ならなかったことくらい察しております。


そんな些細なストレスは、いたいけな女子を弄ぶことで解消していらっしゃることも存じ上げております。


「そういや噂されてたけど、元カレが会いに来たってマジ?」


マジだろうと傷はもう抉られないんでほっといてくれませんかね。


「楓鹿、へこんでるんじゃねえかなーと思って」


付け入る隙は1ナノメートルもありませんから早々のご退場願います。


「慰めてやろうか」

「間に合ってるんで」


詰め寄ってきた李堵先輩の顔を遮断するように、さっと手を出した。慰めお断り。心の底から結構です。


ではお先に失礼、と体を反転させようとしたら手首を掴まれた。反射的に見向き、視界が暗くなってから近くの本棚に押し付けられるまでは、あっという間だった。