「おい。お前ら掃除終わったのか」
「なんだよトラかよ。だいたい終わってチェック済みだし。だからこうして仲良く4人で和気あいあいと話してたんですけど? え? 何? 文句でもあるんですかぁ~?」
聞き慣れた虎鉄の舌打ちには、畏縮させるものがある。温度のなさそうな眼差しも同様だ。
ふっと私に視線を移した虎鉄は何も言わない。私も口を閉ざしたまま、見つめ返した。
絶対、目は逸らさない。
それは虎鉄が未だに怒っていても、このまま無視されようと、私は逃げないという意思表示のためだった。
このあとどうするかは全く考えていないんだけど。
「……うす」
小さく呟いた虎鉄に、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
挨拶、した、よね。なんで? 怒ってたんじゃないの? 無視されると思ったのに……。
「うす」
「……いや、オウム返しとか要らないっす。つーか似合わねえ」
だって他になんて返せばいいか分からなかったんだもの。
驚きと嬉しさとが込み上げて、この距離で恋しさを感じてしまう。
「言っときますけど、俺まだ怒ってるんで」
「えっ? わ、分かってるしっ」
「ちょっとやそっとじゃ機嫌直らないんで」
「自己申告しなくても分かってるってばっ」
「先輩は言っても分からねえから繰り返してんすよ」
「だから謝ればいいんでしょ謝ればっ!」
「ほら見ろ分かってねえ。ちょっとやそっとじゃ機嫌直らねえって言ったばっかなんすけど」
「むっ……か、つくけど、ちょっとタイム!」
言い返せない! 言ってやりたいことだってここじゃ言えない!



