「きゅうさーん。俺は困らねえけどやぁ、ここで死んだらバンビ先輩に迷惑かけっとわ」
「それはダッ……! うえっほ! げっほ!」
急に息を吸い込むから咽ちゃったよ。
「ははっ。変な奴らだなー。ところでひとり足りなくない?」
ぎくりと、ミヤテンの質問に体が強張る。
「俺らがいっつもつるんでるみたいな言い方やめてくださいよー。教室にいるんじゃないっすか? 知らねえっす」
「トラの奴、全く指揮執ってなかったよなー。あの風貌じゃ敬遠されることのほうが多いし、向いてねえのや」
「ぎゃっは! 言えてるわー。その点、俺は近づきやすさがあるから仕事回ってきて大変だったんすよ」
「かっこよく言ってっけど、大人しく掃除しとけってことっす。バクなんか揉め事製造機のゲス野郎なんで」
きゅうちゃん、さすがバクたちと腐れ縁だけあるよね。
感心していると、くすんだ銀髪が視界に飛び込んできて、心臓がものすごいスピードで全身に血を巡らせ始めた。
「――っミヤテン! みんな待ってるしそろそろ戻ろっ」
「んー? ……だな。じゃ、ふたりともまたなー」
こんな逃げるようにしたかったわけじゃないのに。会いたくなかったわけじゃないのに。考える前に口を衝いて出てしまった言葉は取り消せない。
「……、高遠?」
取り消せないけど、動かないことはできた。
廊下を歩く虎鉄が、用箋ばさみに落としていた視線を上げて、私たちに気付いたから。
歩みを止めない虎鉄がこちらに来るなら、私はここから動かない。



