「言いたくない」
素直に認めたら、虎鉄はどういう反応をするんだろうって気にならないわけじゃない。でも、イライラしてる虎鉄にはなんだか、言いたくない。
立ち去ろうとしたら鼻の先を何かが通過して、どんっと音がした。私の行く手を阻んだのは、手の平を下駄箱に押し付けた虎鉄の腕だった。
「答えるまで帰さねえよ」
低く力強い声に俯いてしまっても、自分の中に反応する部分がある。いつもそう。こんな動き回ったあとのジャージ姿で、下駄箱の前で、嫉妬と焦燥でぐるぐるしてる気持ちのままでとか、嫌なのに。
少しも揺るがない虎鉄に、引きずられる。
「ありえない」
「……何が」
「私が翻弄されるとか元カノ登場にうろたえるとか嫉妬するとかありえない!」
吐露した感情のままに、きつく虎鉄を睨みつける。
「おもしろくないわよ! 虎鉄は手の掛かる後輩だけど懐いてくれてると思ってたし、むしろ虎鉄と1番親密な女子って私だと思ってたのに、全くそんなことないんだもん! 私は昨日元カレのことで醜態さらしたのに、虎鉄は元カノと楽しそうにしゃべるし! 元カノが私の1個上だってことも、オリガクの志望動機が私じゃなかったのも、全部おもしろくないっ!」
やけに声が響いたのは、いくつもある下駄箱に反響したせいかもしれない。そのあとに訪れた沈黙の重さと言ったら、普段の比じゃなかった。
「プライド傷付けられたとか、ただ自分が1番じゃないと気に食わないって風に聞こえるんすけど」
「……そうだね」
間違ってない。ショックを受けて、嫉妬するって、きっとそういうことだもの。



