「分かった。話したくないこと話させてごめんね」
「あ?」
やめた。今日はもうダメだ。胸の中がドロドロした感情でいっぱいで、思考力は鈍るし、なんか知らないけど泣きそうだし。思考回路シャットダウン。本日はここまで。
「先輩、ヤキモチ妬いてんすか?」
立ち去ろうとした体が硬直する。
こ、の男は……なんでそんなことを平然と訊けるわけ?
「先輩、俺が元カノとヨリ戻すんじゃねえかと思ったから、先に帰るって言ったんすか? なして? むかついたから? 『おもしろくない』って言ってたけど、何が?」
質問攻めに思わず後退するけれど、虎鉄は私が下がった歩数以上に詰め寄ってくる。
これだから困る。気付くと先手を打たれてる。
「俺に元カノがいたことがおもしろくないんすか?」
なんでそんなこと訊かれる状況になっちゃったんだろう。
ミーアとミヤテンと別れたときは、無事に活動を終えることしか考えていなかったのに。
今日も虎鉄に家まで送ってもらって、何かあるとしたらそのときだって、ちょっと、ドキドキすらしていたのに。
私が計るタイミングとか、自然と作りたい雰囲気なんてものは、虎鉄相手じゃさらわれるのが常なのかも。
そんなことばかりじゃ、平静を保つ方が難しいじゃない。
「なあ、先輩。オリガクを志望した最初の理由が元カノだったことが、おもしろくないんすか?」
下駄箱を背にする私へ影を作る虎鉄と、目を合わせる。



