「先輩っ、送るから! 昇降口で待って、」
振り向くことなくひらりと手だけを振った。
送らなくていい。待たない。しゃべっとけば。何かひとつでも伝わればいいと思った。だけど下駄箱で上履きに履き替えたとき、追いかけてきた虎鉄に呼び止められた。
「何怒ってんすか」
「怒ってないけど」
「じゃあなんでムスッとしてんすか」
「何怒ってんのとか言われたから」
「なら謝れば送らせてくれんのわ?」
「今日はいい」
「なしてや」
「……怒ってるの、そっちじゃん」
眉を顰める虎鉄は不機嫌そのもので、直視できないくらいには怖い。
「先輩の態度にむかついてんすよ。今日はいいって、なしてや。理由は。原因は。俺、誤魔化されたりすんの気持ち悪くて無理」
無理って……本当に怒ってるわけじゃないし、送ってくれなくていいって思っただけなのに。
そう思った原因?
そんなの、たぶん……ショックだったから。
虎鉄にだって付き合っていた子のひとりやふたりいるだろうなって漠然と思っていて。昨夜の慣れたキスで実感して。そしたらオリガクの先輩として元カノがいて。
めずらしいことじゃないって思うのに、自分でもびっくりするくらいの衝撃を受けた。
半年前に振られたってことは、1月くらいで。それじゃあ進路変更は厳しいよなって。むしろ虎鉄なら、振られても関係ねえとか言いそうだって思った。
バクに止められても強行しちゃうような。別れても好きな元カノを追いかけるための受験だって成功させちゃうような。虎鉄はそんな、有言実行の男だよな、って。



