「ぜーんぜん。腹黒くないっすよ。純情乙女100%の思考が俺に分かると思います?」
「思わないけど……何が言いたいの? バクはあのマネジを狙ってるってこと?」
「あざといっすわーバンビ先輩。俺が面白ネタを無料提供するはずが、」
ない。というバクの言葉尻が濁されたのは、「なんだよお前ら!」とハンド部の熊みたいな男が虎鉄とマネジに近づいたからだった。
「ずっと楽しそうに喋りやがって、より戻すのかー!?」
「うわ、うっぜえ!」と、一気にフラストレーションが溜まったらしいバクは頭を抱え、がしがしと掻いた。
……そういうこと、ね。
明らかに余計なお世話的発言をした熊男も、恐らくは虎鉄たちと同じオリ中出身の先輩だろう。
「そんなんじゃないよっ」
マネジは赤面して必死に手を振り、否定している。
虎鉄は興醒めしたように、熊男に対して無表情を貫いていたけれど、マネジに同意を求められると表情を和らげ、「そっすね」と笑う。
私がいつも、笑うとけっこう可愛いって感じるそれと、同じ笑顔だった。
「あー……っと、バンビ先輩?」
「何よ」
「帰ります?」
「なんでよ」
「俺には熊男をトラ目掛けて背負い投げる腕力がないんで」
「だったらお得意の悪知恵でも働かせてみせなさいよ」
互いのあいだに無言空間が広がり、今何を口走ったか気付いたときにはもう、私は目を輝かせるバクの悪知恵の餌食になることが大決定していた。



