「信じる信じないは先輩次第っすけど、今も変わらず俺は、先輩のこと可愛いだけじゃねえと思ってます」


バンビ先輩は口を真一文字に結ぶだけで、俺は適当に辺りの光景を見遣る。


2台分の車庫には、いかにも女性向けな水色の軽自動車が1台。その横にはコンクリートの外階段があり、見上げるとポスト付きの小洒落た白い門扉がある。横長の庭に面した一軒家も西洋かぶれで、明かりはリビングと思われる場所しか点いていない。在宅しているのは母親か姉妹だろう。


「俺、嘘つかねーっすよ」


視線を目の前のバンビ先輩に戻すと、不安げに揺れる瞳が俺に焦点を合わせた。


疑うように、探るように強められた眼差しが、ふっと弱まったとき。何か言われる前にと、その唇を塞いだ。


びくりとしたバンビ先輩が1歩後退しようとするのが分かり、すかさず顎を固定して離れられないようにする。


これ以上は必要ないと、頭では分かっていたのに。


「ちょっ、と、虎……っ」


ごく至近距離で熱っぽい息づかいを感じた瞬間、確かな情欲を持った舌を、柔らかな唇のあいだに差し込んでいた。


いよいよ本当の痴漢だなと思いながら、よく今まで我慢できたなとも思う。このあと蹴られようが軽蔑されようが構わないほどには、抑えが利かなかった。


生ぬるい舌が触れ合うたび、背筋に痺れを感じたり。くぐもった声を洩らされると、脳髄が溶けそうな気になったり。


鎖骨あたりの服をぎゅっと握られたときなんて、この人の全部を自分のもんにしたいと思った。