……慰め? いや、以前かまってちゃんだと思って対応したら、顎に頭突き食らったしな。
菓子? 甘いもんで元気になるレベルじゃねえよな、たぶん。投げ付けられても困るし。
「先輩こそ、何が必要だと思ってるんすか?」
「分かんない……。分かんないから、しゃべって気を紛らわせたいだけかな。ずっと同じこと考えそうで、」
額に手を当てたバンビ先輩は、体育館にいたときのように俯いていた。
その姿がやたらに小さく見えて、抱きしめたくなる。
バンビ先輩は、ずっと可愛い自分でいる努力をするから、中身も見てほしいって、言えずに泣いているみたいだ。
「ねえ、虎鉄。今の私に必要なものって、何」
ぴたりと足を止めたバンビ先輩に倣うと、自分が失念していたことに気付いた。バス停から自宅まで5分と掛からないというのに、会話はまるで終息していない。
俯くバンビ先輩は一軒家の自宅から洩れるオレンジ色の明かりを背負い、俺の答えを待っている。
「……俺?」
ぽつりと零した答えはしばらく宙を泳いでから、すっぽりと胸の鞘に納まった。
バンビ先輩は一呼吸遅れて顔を上げたが、特に驚くことじゃない。簡単なことじゃねえか。
自分の考えだけじゃ落ち込みそうで、這い上がりたいから俺に尋ねるってことは、バンビ先輩に今必要なのは俺ってことだろ。慰めも、菓子だって、俺がいなきゃ与えることもできねえんだから。



