「訊かないんだね」
バスから降車してすぐ投げ掛けられた言葉に主語はなかったが、覇気もなかったので、まず間違いなく元カレのことを差していると思った。
「訊いてほしいわけじゃないっすよね」
「……なんでそう思うの?」
「先輩、枯れかけのサボテンみたいっすもん」
「触れたら怪我するぞ的な意味でしょうかね」
「俺はいいんすよ。毒づかれようが、蹴られようが。でも先輩、そのあと大概、後悔して落ち込むじゃないっすか」
そっちのほうが面倒くせえ。
と言うと語弊がありそうだが、感情任せに鬱憤を晴らそうと、ひとりでじっと耐えようと、気が楽にならないのなら、やめたほうがいいんじゃねえかと思う。
「先輩に今必要なのって、俺の質問攻めじゃねえと思う。から、訊かないだけっす」
質問攻めってほど訊きたいこともねえけど。
どっちから告白したのか。どこが好きだったのか。ヨリを戻しに来られてどんな気分だったのか。
そんなものは全部、あんな男と付き合っていたのか、と否定的な気持ちでいる俺が聞くべきじゃない。何より俺が尋ねることで、再び傷を抉るようなことはしたくなかった。
バンビ先輩はもう充分、嫌になるほど。自分はトロフィー感覚でしか求められないんだと、思い知らされたはずだろうから。
「つまり虎鉄は、私のこと気遣ってくれてるんだ?」
「俺がそんな遠回しの配慮みたいなことをする奴に見えるんすか」
「じゃあ今の私に必要なのは、なんだと思ってるの」



