「翻弄なんかされてない!」
「分かった分かった。ハイ、返す。今日のお礼は昼飯1食分でよろしくーっ」
「私へのご褒美とつり合ってない!」
「はははっ! また明日なー!」
頭上に掲げた手を振って駆けて行く深山先輩を引き止めたかったのは、トングを握り締めるバンビ先輩だけだった。
気付けばCobaCo店内にいたオリガク生が窓越しにこちらの様子を窺っていたので、俺達は休憩することなく、だらだらとオリガクへ戻った。
その間、バクはめずらしく茶々を入れず、俺もあえて元カレの話題に触れることはないまま、下校時刻を迎えた。
「あのミヤテンって人、先輩のクラスメイトっすよね」
昨日に引き続き、拒否されることもなくバンビ先輩の地元へ向かうバスに乗り込んだあと、訊いてみる。
窓の外を眺めていたバンビ先輩はゆっくりと、隣に座る俺へ視線をよこした。
「そうだよ。同じクラス。ていうか、ほんとに少しも知らないんだ……ミヤテン、虎鉄たちと地元一緒だよ」
は? オリ中出身? 見掛けた覚えがまるでねえな。
騒がしいタイプに感じたし、顔もまあ悪くないし、ダチも多そうだとは思ったけど……。
「俺らの代は2個上との方が交流あったからっすかね。見た感じ、あの人と俺らじゃ接点なさそう」
「あー。だね。ミヤテン行事とかスポーツ大好きだし。バスケ部なんだけど……今日は部活休みだったみたいだね」
悪いことしたな、とバンビ先輩は伏し目がちに苦笑を洩らす。そういえば乗車する前に携帯をいじっていた。謝罪のメールでもしたのかもしれない。



