「元気出せよー。頑張ったご褒美にほら、ガムしかない」
きゅうが敵意を示していなかった以上、深山先輩を警戒する必要は全くなさそうだが。
「いつまでひっついてんのわ?」
そろりと顔を上げたバンビ先輩には、言わせてもらう。
「ひっつくなら俺だべや」
その男にどんだけ心許してんだか知らねえけど、頼る相手間違えてねえか。
「~っこ、」
「はい?」
「虎鉄はすぐ手ぇ出すじゃんっ! ミヤテンはアイツの顔知ってたから説明省けたし、難を逃れるタイプだから穏便に済むと思って、」
「事前に殴っていいか訊きますけど」
「バクを殴ったとき返事聞かずに殴ったじゃん!」
「なんすか。信用できねえって言いたいんすか」
「この場で1番平和主義なのはミヤテンだからって話!」
はあ、そーっすか。俺じゃあ難を逃れられねえと。俺に元カレだと説明すんのは面倒くさかったと。
俺よりも小柄でいかにも優男っぽいその男のほうが、よっぽど信頼を寄せるに値するってか。
なら帰りもそいつに送ってもらえばいいんじゃないっすかね。俺が送るよりは身の安全が保障されるんじゃないっすかね。ふざけんな誰がヤンキーで変態だ。
「言いたいことがあるなら眼飛ばさないで口で言いなさいよっ!」
「ははっ! すげえ。高遠が翻弄されてる」
深山先輩がくつくつと肩を揺らして笑うと、バンビ先輩は顔を赤らめた。



