「普通『そんなことしない』って言うでしょ! 言いなさいよっ」
「先輩相手に? そんな明らかな嘘つく男いるんすか?」
「このエロトラ! 変態! しゃべるな近づくな!」
ふは、と息を吐くように笑った虎鉄のそれは、両耳を塞いだ私でも聞こえた。
「食っていいならって最初に言ったじゃないっすか」
頬杖をつく虎鉄は目元も口元もゆるませている。
「拒否んなら、食わないんで。安心していーっすよ」
「……っだから、」
それはそれでムカつく。なんて言えるわけがない私の続きを、虎鉄は不思議そうにして待っている。
なんなの、もう……。
送りオオカミにならないとは言い切れない、みたいなこと言っておいて、私が嫌がるなら何もしないって。
私をエロ可愛いと思うから、一発ヤりたいだけなのか。私が好きだから、嫌がることはしたくないと思っているのか。
どっちなの? どんな気持ちでそんなこと言うの?
私は虎鉄に嫌われているとは思わない。
バクを殴ってくれて、守ると言ってくれたから。慕ってくれているし、懐かれていると思う。
だけどそこにあるのは虎鉄の裏表のない〝らしさ〟であって、秘めた恋心じゃない気がする。
虎鉄は、私が好きなの?
見た目の可愛い先輩だから、仲良くしたいだけなの?
「……言っとくけど、私、防犯ブザー常備してるから」
毎日ポケットに入れている防犯ブザーを見せる。突然のことに虎鉄は目を丸くさせ、ぶはっと吹き出して俯いた。



